仙台地方裁判所 昭和29年(ワ)16号 判決 1956年3月26日
原告
伏見東吾
被告
平良由蔵
主文
被告は原告に対し、金九千七百二十七円九十七銭及びこれに対する昭和二十九年一月二十日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払わなければならない。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その四を原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。
事実
(省略)
理由
原告が仙台市原町小田原十文字西二十五番地において壁木舞請負業を営んでいるものであること及び原告が昭和二十七年七月十七日同市原町小田原字福沢十五番地の一村並喜内方を訪問したところ、被告は、同所で村並と飲酒中であつたが約三十分ほどして帰り、原告はそれから更に二十分ほどして村並方を辞したことは当事者間に争いがない。
次に、成立に争いのない甲第一号証ノ三ないし七、第四号証の一、乙第一ないし第三号証(一部)、当事者各本人の供述を綜合するに、原告は、前記昭和二十七年七月十七日午後三時ごろ、所用のため村並喜内方を訪問して、飲酒中、被告が酔余原告と村並との用談を妨害するような言辞を吐いたことから被告と口論となり、被告は、村並から注意を受けて、一旦退去したが、再び立ち戻つて、原告に対し、「話があるから、」と言つて原告を外に呼び出したこと、そこで、原告は、村並方を辞して、玄関を出るや、被告は、「うらみがある。」と言つて、原告の前襟をとり、同玄関より五間位引きずり、右手拳をもつて約五回原告の頭部を殴打し、原告が苦痛に堪えかねて、右玄関内に入つたところ、又追い付き、更にその顔面その他を約三回殴打し、よつて、原告に対し治療約三週間を要する左眼瞼、左眼球結膜下出血及び治療約十日間を要する肩胛間部挫傷の傷害を負わせたことを認めることができる。従つて、被告は、原告に対し、被告の右不法行為によつて原告に与えた損害を賠償すべき義務がある。
そこで、右損害の範囲及び数額につき案ずるに、成立に争いのない甲第二ないし第四号証の各一、二、第五号証、原告本人の供述を綜合すると、治療費として、原告主張の(一)(イ)のとおり松田医院に金六百円、同(一)(ロ)のとおり池田医院に金千五十円、同(一)(ハ)のとおり狭間整骨院に金六百八十円を、更に前示受傷のため眼鏡の必要を生じその買受代金として同(二)のとおり仙台駅前正栄堂時計店に金百七十円を、以上合計金二千五百円を支払つたことが認められる。
次に原告本人は、原告は、本件受傷により三十七日間その職業である壁木舞請負業を休み、本件受傷後一週間位は、その前に受け請つた仕事があつたがその後は、注文も減り、一ケ月内外その仕事が減少し、その割合は、通常の仕事の二割位であると供述するので、原告本人の右供述及び弁論の全趣旨によつて考えると、原告の仕事の減少した期間は、少くとも本件受傷の日である昭和二十七年七月十七日より同年八月十五日までの三十日間であつて、その減少の割合は、通常の場合の一割を下らないものと認めるのを相当とする。右認定を覆えすに足りる証左はない。そして、原告本人の供述によると、原告の請負代金の二割及び原告の売却材料代金の五分が利益として得られることが認められ、更に、原告本人の供述及び同供述によつて成立を認め得る甲第七号証の七ないし十を総合すると、昭和二十七年七月十七日より同年八月十五日まで原告の請け負つた代金が合計金五万三千三十円、売却した材料代金が合計金八千九百十七円であることが認められるから、右一割の割合を基準として、原告の受傷しない通常の場合の代金に換算すると、請負代金が金五万八千九百二十二円二十二銭、材料売却代金が金九千九百七円七十七銭となり、右二割又は五分の割合を基準として、それぞれ当該の利益を計算すると、請負代金については、金一万千七百八十四円四十四銭、材料売却代金については、金四百九十五円三十八銭、合計金一万二千二百七十九円八十二銭となることが明らかである。これに対し、原告の受傷の結果、仕事の減少した昭和二十七年七月十七日より同年八月十五日までの得た利益は、請負代金については、右金五万三千三十円の二割である金一万六百六円、材料売却代金については、右金八千九百十七円の五分である金四百四十五円八十五銭、合計金一万千五十一円八十五銭であることが計算上明白であるから、右金一万二千二百七十九円八十二銭と金一万千五十一円八十五銭の差額金千二百二十七円九十七銭が、原告が本件受傷によつて喪失した原告の職業によつて得べかりし利益の額であるといわなければならない。
次に、前記甲第一号証の四、第二ないし第四号証の各一、二及び原告本人の供述を綜合するに、原告は、当時四十五歳の健康体であつたところ、受傷の程度又重傷とは認め難く、又将来に傷害の残ることもあまり考えられないのであるが、その他前段認定の原告が被告から傷害を受けるに至つた原因、経過を合わせ考えると、本件傷害によつて原告の受けた精神的苦痛は金六千円をもつて慰藉するに足りると認めるのを相当とする。
以上、原告が支出した治療代、眼鏡買入代金、原告が喪失した得べかりし利益及び慰藉料は、原告が被告の本件傷害なる不法行為によつて被つた損害であるから、右合計金九千七百二十七円九十七銭は、被告において、これを賠償すべき義務がある。
よつて、原告の本訴請求は、右金九千七百二十七円九十七銭及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和二十九年一月二十日以降完済まで、民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める限度において、理由があるから、これを認容するが、その余の部分は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十二条、同第八十九条、仮執行の宣言につき、同法第百九十六条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 野村喜芳)